産業技術を内装デザインに転用する
福井県鯖江市に建つ3階建鉄骨造のビルを、観光案内所兼オフィスへと改修した。越前鯖江地域には、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・眼鏡・繊維の7つの産地が集積しており、施主である一般社団法人SOEは、この地で工房見学イベント「RENEW」をはじめとした産業観光を推進し、持続可能な地域づくりに取り組んでいる。
建物の構成は、1階を観光案内所、2階をオフィスとし、さらに1階奥の倉庫部分には1on1のミーティングやワークショップに利用できる土間スペースを設けた。建物が位置する河和田地区は漆器産地の中心にあり、周囲には材料問屋、木地師、塗師などが集積し、漆器の製造工程が分業体制のもと完結する地域特性を持つ。本計画では、観光案内所としての機能にふさわしく、この産地のものづくりのプロセスを内装や什器に組み込むことを意図した。具体的には、デッドストックとして残されていた粗挽木地を棚柱に用いた棚、粗挽木地を半分ろくろ挽きすることで前後の差異を可視化した照明、古典的な朱色から現代的なピンクへとグラデーションで塗り分けた漆仕上げのカウンターなど、産地の技術や素材を造作に転化している。
建築工事においては、床・壁・天井の色調を統一することで抽象的な背景をつくり、什器や展示物が際立つ空間構成とした。また、2階オフィスのキッチンや建具、階段室の内装には、SOEやRENEWのロゴカラーであるオレンジを取り入れ、空間全体のアイコンとなるよう計画している。
本プロジェクトは、産地の技術や素材に向き合いながら、具象性と抽象性のバランスを探り、地域性を内包したデザインとして内装に落とし込むことを試みた。
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