修復と改修の間を考える
石川県金沢市の中心市街地にある大正期に建てられた洋館付き町家を、眼鏡店へと改修した。本建物の周辺には、大正期に西洋の影響を受けた近代建築が数多く残っており、市内でもこの一帯は当時としては先進的な街であったことを示している。こうした建物群は、地域の風景を形づくる重要な要素となっている。
改修の過程では、既往の改修によって覆われていた仕上げを撤去すると、格天井や土壁といった伝統的な要素が姿を現した。洋館部分の2階では漆喰仕上げの天井に蛇腹装飾が施されており、劣化によって一部剥落した箇所からは、現在では稀少となった木摺下地が確認された。設計は実施設計完了後に着工したが、工事の進行に伴い現れた既存要素を評価し、それに応答する形で設計を逐次調整している。
建物外観は、洋館と町家が隣り合うことで和洋折衷の姿を呈しており、細部には日本の大工が手掛けた洋風意匠が残存している。今回の改修では、輸入材を用いたシンプルだが実際には施工が難しい造作を、町家修復に熟練した大工が制作している。また、既存階段に新たな部材を被せる形で踏面寸法や登り方向を調整するなど、既存の履歴を可視化しながらも可逆性を持たせた改修が施された。これにより、将来的にはオリジナルの状態に戻すことが可能であり、新旧の痕跡が連続性をもって読み取れるよう、意匠・素材・色彩が決定されている。
本事例においては、「何に価値を認め、何を保存すべきか」という観点を基盤に、活用を前提とした介入のあり方が模索された。一般に文化財修復は建物自体を主体とし、意匠や技法の保存を重視するのに対し、通常の建築改修は利用者を主体とし、機能性を優先する設計行為である。その根本的な差異は、設計の目的が建物にあるのか、あるいは利用者にあるのかという点にある。本プロジェクトは、その両者を架橋する試みとして、文化財修復的視点とストック活用的視点を併せ持つ保存活用を試みた。
all works