北陸らしい住居を考える
設計事務所を併設した自邸である。ここでは、これまでに実践してきたシェアやケアといった分野での設計経験を活かすため、モノやスキルを地域の人と共有しあう「寺町コモンズ」という活動もしている。敷地は藩政期に寺社が集められた重要伝統的建造物群保存地区のすぐ脇にあり、周辺には古い町家や大きな庭木が残っている。
変型的なL字型の敷地に対し、道路沿いに建築をワンヴォリュームで据え、奥に隣家にも光を届ける庭を設けた。交差点と接する敷地角に人を迎える土間+前庭、ヴォリュームの反対側には金沢の町家で見られるセド(奥庭の手前に雪下ろしや洗濯ができるスペース)+奥庭を設け、その間をLDK機能が繋ぐ構成である。土間は道路沿いに全面開口とし、パブリックスペースの延長のような透明感ある場とした。セドは、道路沿いに軒高さいっぱいのスリット開口と屋外カーテンを設けて大きなスケールの玄関口をつくり、奥庭に開いた連続的な場としている。
道路沿いの立面を大きく占める開口部は、軸組と水平連窓を組み合わせ、採光・日射熱を積極的に取り込みつつ、内部と道路の距離感をグラデーショナルに変化させ、それぞれにあった窓辺を構成している。一方、外から見ると、機能割りを超えた大きな窓を構成し、この建築の住宅だけではないオープンな活動を、態度として示す立面を志向した。各所が個別に機能するだけでなく、土間、 LDK、セドを繋げて一体的に「寺町コモンズ」の活動スペースや事務所の作業スペース、友人との食事会などに活用している。こうしたオープンな活動とプライベートな住生活を建物全体で調整する弾性的な建築を目指した。
故郷である北陸地方で初めて設計し、この地域の雨雪に対する屋外スペースのつくり方、曇天に適した色づかい、冬季の自然光と日射熱の扱い等について考えた。それらへの応答として洗練された北陸建築の系譜と接続する、バナキュラーと住宅作品の中間のようなものを模索していた。環境を制御する屋根や開口部などの建築的エレメントを風土に合わせて再考して、歴史的知性のうえに成り立つ北陸らしいケーススタディを通し、建築の普遍的な可能性を見出したい。
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