金沢市の文教エリアに建つ木造2階建ての住宅。周辺には緑が多く、公園や学校、競技場など、ゆとりある公共スペースが集まっている。本敷地裏の空き地は、かつて銀行の寮であった跡地で、その先に競技場の樹木がよく見渡せる。施主は「空き地の向こうの風景に対して大きな開口部を設けた住宅」を要望していた。しかし、敷地裏の空き地には、将来的に大きな建物が建つ可能性がある。また、前面道路はT字路になっているため、視線が奥まで抜ける箇所がある。そこで、もう一つの要望であった大きなテラスを、空き地の向こうの開放的な風景と前面道路のT字路の抜け感とをつなげるような位置に設け、テラスを介してリビングを開くことにした。前面道路のT字路から建物を見ると、建物に穿った大きな空洞のようなテラスが、建て詰まった住宅地にぽっかり余白をつくり、住宅地のすぐ裏にあった競技場の緑や空まで視線が抜けていく。住宅が隙間なく建ち並ぶ風景の中、テラスの大きな気積の空白が、周辺環境の固有性を浮き彫りにする。
理学療法士である施主が、将来的に自営業もできるように、1階には前面道路に長く水平に伸びた開口部を設けた土間や施術スペースを設け、外部からも見通しのよい窓辺環境を整え、裏側にプライバシーを確保した寝室+水回りを集約させている。プライベートな諸室が集まっているので、あえて天井を低く抑えて落ち着いた場をつくり、水平連窓と合わせて平面的な長さを強調した伸びやかな断面構成としている。また、前面道路の傾斜を利用して、1階から地面や将来植える植栽を近く感じるように、半分程度の床を地中に埋めた。2階は、テラスと一体的に使える、大きな掃出し窓と高い天井による、おおらかで開放的なワンルームとした。テラスはLDKと連続する大きな屋根を架け、降雨積雪の多い北陸地方でも使いやすい屋外スペースとし、北海道住宅によくみられる無落雪屋根を採用した。また、1階と2階のメインの開口部の向きを90度回転させることで、上下階の移動の際に感じる光の入り方や景色、外とのつながり方に変化をもたせた。
明快な二層構成であるが、表層的な操作ではなく、テラスの配置、室のプロポーションの差異、開口部の構成/向き等といった建築的な手法によって、上下階に異なるおおらかな場の設計を試みた。
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