目に映る森の広葉樹で建てる
飛騨高地の北部に位置する飛騨古川は、河川に沿って細長く伸びる盆地の中にあり、山々に囲まれたまちからは、常に視線の先に森が見える。飛騨市は面積の93.5%が森林、そのうち68%が広葉樹天然林である。一方、飛騨でつくられる家具の多くは、外来材が使われている。平均直径が26cmと細く、樹種が多様で安定供給ができない。こうしたことが障壁となって、身の回りの資源が手付かずになっている。予てから、この森の広葉樹活用に取り組んできた施主は、森とまちの端に位置する製材所の中に、活用を促進するための拠点をつくることにした。建築はもちろん広葉樹で建て、その可能性を体現できる場所にしたい。そのために森に入って木を選ぶことから始め、製材の各工程に関わりながら、都度、利用できる材の条件に合わせて設計を調整していくプロセスで進めた。
積雪の多い飛騨の広葉樹は、曲がり木が多く、長尺物が確保できない。そこで、短い部材を組み合わせたトラス構造を採用する。汎用性と乾燥に配慮して、選定した丸太は一般的な家具用材と同じく、仕上がり厚30mmで挽くこととし、応力分布に合わせて枚数を変化させながら、重ね合わせてボルトで接合する。樹種が混ざってよいように、部材幅は余裕を見込んだものとした。接合のしやすさから矩勾配の屋根とし、これを支持地盤まで掘り下げたコンクリート基礎に乗せる。軒の低い屋根、基礎の立ち上がり高さは雪への配慮につながる。節や割れのあったものや、幅の細い辺材など構造材に利用しなかった部材は、家具や建具、フローリングやデッキに適材適所で利用する。さらには、加工工程で発生するカンナ屑や木毛は、断熱材に利用したり、圧縮して木質ボードにするなどして活用を試みている。
さまざまな樹種が混ざり、また耳を残した架構には一つとして同じものがない。目に映る森の木から考えることで、森の賑やかな環境をそのまま体現した特徴的な空間が生まれている。ここに訪れる人が、広葉樹の可能性に触れ、さらなる新しい活用が見出されることに期待している。
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