複層的な街並みへの参与
日本三大霊山のひとつである白山の麓にある古い街並みが残る周辺環境と、ゆったりとした敷地に惹かれた若い建主夫婦は、広い庭と開放的なリビング、ダイニング、キッチンを備えた平屋を求めた。周辺には山から流れる清らかな水源のおかげで、酒蔵や醤油、味噌、麹などの伝統的産業が今でも残り、この敷地の周りも酒蔵の建物群が取り囲む。
敷地西側の酒蔵が所有する隣地は、空地で塀がない。この敷地から見たその空地には、畑や小さな植林地がありその先に町家や山並みが見える。これを借景に、視覚的な広がりをもたせた中庭を設けるべく建物の配置を検討した。また、前面道路の喧騒から少し距離を取るため、道路に沿ってL字型に建物を配置した。建主の趣味であるキャンプの道具の出し入れを考慮し、道路側に建つ長屋門のようなガレージ(馬が二輪車に、農具がキャンプ道具に置き換わった)と、大きな妻壁をもつ母屋のようなリビング、ダイニング、キッチンが、中庭を介して見通せるような平面計画とした。
敷地周辺には、町家の軒が揃った街並みや、増改築された大きな酒蔵、近代的な事務所ビルや工場など、異なる時代や機能の建物が入り混じる。本敷地の道路を挟んだ向かいの土地は分譲住宅地になる予定で、カーポートを携えた住宅も建つだろう。この街並みを形成する多種多様な建物は、この地で暮らす人びとの息づく風景として現れている。
こうした環境において、それぞれの時代、機能の建物にも解釈できるような住宅がつくれないか考えていた。結果として、増改築された町家のような屋根形状、蔵と似た屋根勾配や納まり、近代的な工業製品の外壁や部材、隣地の休遊地も自らの敷地と見なすような配置計画となった。北陸住居No.1で試みたような、あるひとつの歴史的建造物や景観的特徴を参照するのではなく、時代による変遷が混在するこの街並みをそのまま受け入れ、参与するような建築のあり方を模索した。
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