石川県金沢市の中心市街地にある商店街に面した、2階建て木造店舗をベーカリーに改修した。
現地調査の際に、既存の大きなショーウィンドーから旧医院の外壁や植栽、商店街店舗のオーニングや雨樋などの色彩豊かな風景が見え、この商店街の新旧の店舗が混ざり合う、おおらかな雰囲気を感じた。そこで、この印象的な周辺環境の色を取り込んだ色彩計画を考えてみるために、対面の建物の各要素、本建物についた既存オーニング、北陸の曇天など、自らも含めた街の構成要素をサンプリングし、塗装色番号に置き換え、色の配置や比率を調整して店内に配色することを検討した。また、この建物はこれまでに何度もテナントが入れ替わっていたため、プラスターボードが貼られていない箇所や、塗装が途中で止まっている箇所など、随所に度重なる改修工事の痕跡が見てとれた。予算と工期の都合により、本改修では最低限必要な箇所の補修・メンテナンスに留め、機能的に問題のある部分だけをボードなどで補修し、既存の取り合いで問題のない箇所はチグハグなままとした。その結果生まれる不思議な納まりに合わせて色を切り替え、他者の痕跡にこちらがチューニングするように色彩計画を重ねることで、既存建物が持つチグハグさを意匠化し、他律性を持った内装計画とした。そうしたことで、窓外の風景と同調するような内部空間があるようにも見えるし、室内の色彩が外部まで連続しているようにも見える。
一般的なテナント内装工事では、過去のインフィルを白紙にし、外部と切り離した内装だけで世界観をつくり出すことが多いが、本計画は過去の積み重ねの上に成り立ち、周辺環境との関わりの中で設計を進めた。そのようにして、一般的な内装設計の時間性と領域性に対して、それを越境していくような手法を試みている。
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